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月別アーカイブ: 2025年9月

第14回左官工事雑学講座

皆さんこんにちは!

株式会社ヤマダ、更新担当の中西です。

~やりがい~

 

素材を生かし、性能を設計し、空間の“空気”まで仕上げる仕事

左官は“塗る人”ではありません。土・石灰・石膏・セメント・鉱物系仕上げなど多様な素材を選び、下地の状態を診断し、層構成を設計し、湿気・熱・音・光までを整える“外皮・内装のエンジニア”。だからこそ、現場からのニーズは年々高度に、そしてやりがいもまた深くなっています。本稿は、左官業のリアルに根ざしたニーズ(要求)とやりがいを整理し、すぐ使える実装のヒントまでまとめます。


1|いま現場が左官に求める「主要ニーズ」10

  1. ひび割れ抑制と付着の確実化
     下地の動き・収縮に応じたメッシュ補強、誘発目地、弾性下地、界面プライマーの選定。数年後の再劣化を“設計で”減らす。

  2. 調湿・空気質(IAQ)性能
     漆喰・土系・珪藻土・鉱物系の吸放湿レート、pH、VOC吸着性を数値で提示。カビ・結露対策とセットで提案。

  3. 短工期・安定品質
     可使時間・養生温湿度・含水率の管理、機械施工(ポンプ・スプレー)とのハイブリッドで面精度×速度を両立。

  4. 改修下地への適合
     ALC・PB・RC・旧塗材・タイル撤去跡などに対し、付着試験/中和・pH確認/下地調整の“診断→処方”力。

  5. 耐水・耐汚染・清掃性
     水回りや商業施設では撥水・防汚・耐薬品の要件が必須。鉱物系+保護材やマイクロセメント等の表層設計

  6. 外装の耐候と通気排湿
     一次防水・二次防水・通気層の連続性。外断熱(EIFS)では熱橋対策とメッシュの重ね幅まで明記。

  7. 意匠の再現性と多様性
     磨き・掻き落とし・洗い出し・骨材混入・テクスチャ。サンプル承認→標準板→量産の“同じを繰り返せる”段取り。

  8. 品質の“言える化”
     塗り厚・平滑度・含水率・温湿度・メッシュ重ね幅・写真の記録台帳。引渡し後の説明責任に直結。

  9. 安全・環境
     粉じん対策・低VOC・静音養生・廃材分別。低炭素素材や再炭酸化の視点、LCA/EPDの要望も増加。

  10. BIM/CAD・他職種との同期
     層構成をBIMに載せる、拾い出し精度、監督・内装・防水・設備との干渉解消。デジタル前提の合意形成。


2|左官の“やりがい”――8つの瞬間

  1. 面が立ち、空間が締まる瞬間
     下地の波・出隅入隅が整い、光がキレイに走ったとき、空間の品位が一段上がる手応え。

  2. 素材の声を引き出す喜び
     土・石灰・鉱物系の手触り・色の深み・光の拡散。サンプルでは出なかった表情が“現場で”立ち上がる。

  3. 数字で語れる職能
     付着強度、含水率、塗り厚、温湿度、pH…感覚+数値で品質を説明できる誇り。

  4. 難所を納め切った達成感
     開口周りの微妙な動き、既存との取り合い、曲面の連続。**1発で“収めた”**ときの快感。

  5. 健康・快適への貢献
     調湿でカビや匂いが減り、「子どもがよく眠れる」「冬の結露が止まった」と生活者の声が届く近さ。

  6. 伝統と現代の橋渡し
     漆喰・土壁の技を、改修・商空間・外断熱の文脈へアップデートして活かせる。

  7. チームで成果が出る一体感
     防水・内装・電気・設備と同じ地図で段取りがハマり、手戻りゼロで終わる日。

  8. 技の継承が見える
     鏝の角度や圧を言語化・動画化して後輩に渡せる。技能が資産になる手応え。


3|発注者別「ニーズの翻訳」早見表

  • 設計者:意匠×性能の両立/サンプル→標準板→量産の再現性/BIM層構成・テクスチャ情報/LCA資料

  • 現場監督:工期順守(可使時間・養生計画)/粉じん・騒音・動線の安全計画/記録台帳(塗り厚・含水率・写真)

  • 施主・運用者:清掃・補修の容易さ/カビ・匂い対策/色ムラの安定/保証とメンテ周期


4|そのまま提案できる「サービス・パッケージ」

  1. ひび割れ抑制パック
     開口周り・入隅・目地のメッシュ標準図+弾性下地+誘発目地。ひび幅・間隔の許容を提示。

  2. IAQ(空気質)パック
     漆喰/鉱物系で吸放湿・pH・VOC吸着を数値で提示。水回りは保護材の耐薬品データ添付。

  3. 改修ワンデー薄塗りパック
     旧クロス・旧塗材の上から下地調整→フィラー→薄塗り仕上げ。粉じん・臭気・当日復帰の段取りを明文化。

  4. 品質“言える化”パック
     塗り厚ゲージ・含水率・温湿度ログ・写真をQR台帳化し、引渡しPDFを納品。


5|現場で効くチェックリスト(抜粋)

下地診断

  •  付着強度・含水率・pH

  •  クラック種別(構造的/表層)と補修方法

層構成・材料

  •  プライマー相性/メッシュ重ね幅/誘発目地位置

  •  可使時間・養生温湿度・塗り重ね間隔

仕上げ・意匠

  •  標準板の色・艶・テクスチャ承認

  •  量産時のバラつき許容(ΔE・光沢度)

安全・環境

  •  粉じん養生・低VOC材・廃材分別

  •  作業音・時間帯の合意

記録

  •  塗り厚・含水率・温湿度・写真・ロット番号を保存


6|ショートケース(要点だけ)

A|RC外壁の再塗装前下地

  • 課題:ヘアクラックと白華。

  • 施工:洗浄→低圧注入→弾性ベース+メッシュ→鉱物系仕上げ。

  • 成果:3年経過でクラック再発ゼロ、雨だれも抑制。

B|飲食店の厨房壁

  • 課題:油汚れ・漂白洗浄への耐性。

  • 施工:鉱物系薄塗り+耐薬品保護材、立上りは見切り金物で清掃性UP。

  • 成果:清掃時間30%短縮、退色・剥離なし。

C|保育施設の教室

  • 課題:匂い・結露。

  • 施工:漆喰仕上げ+換気計画と窓の結露対策をセット提案。

  • 成果:冬の結露ほぼ解消、臭気苦情ゼロ。


7|90日アクション(明日から動ける三手)

  1. “層構成シート”を標準化
     下地条件→プライマー→補強→下塗→中塗→仕上→保護→養生をA3一枚に。現場・設計と共通言語化。

  2. 計測と台帳の習慣化
     塗り厚ゲージ・含水率計・簡易温湿度ロガーで記録→QR化。引渡しの説得力が跳ね上がる。

  3. メッシュ・目地の標準図セット
     開口・入隅・天井見切りの3D断面テンプレを社内共有。クラックを“施工の工夫”ではなく設計の既定動作に。


おわりに――“仕上げ”は最後の作業ではなく、最初の価値

左官の価値は、素材の魅力×建築物理×段取りを一体にして、空間の“質”と“健康”を底上げすることにあります。
ニーズは高度化していますが、やりがいはむしろ増えています。面が整い、光が走り、空気が変わる――その瞬間を毎日つくれる仕事は多くありません。

次の現場では、

  • ひび割れを“設計で減らす”、

  • 品質を“数値で語る”、

  • 美しさを“再現で裏付ける”。

この三点を合言葉に、左官の価値をもう一段、引き上げていきましょう。

 

 

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第13回左官工事雑学講座

皆さんこんにちは!

株式会社ヤマダ、更新担当の中西です。

 

~時代の変遷~

 

 

土からデザイン、性能へ。壁は“仕上げ”から“建物の器官”へ進化した

左官は、土・石灰・石膏・セメントなどを練り、下地を整え、塗り重ねて仕上げる仕事。日本建築の原風景をつくってきた技術は、材料・工法・役割のすべてが大きく変化してきました。ここでは、素材・工法・道具・性能・市場の視点で、時代ごとの転換点を俯瞰します。


1|素材の変遷:土・石灰から、セメント・樹脂、そして再び土へ

江戸~明治

  • 町家や土蔵の土壁(木舞下地+荒土/中塗り/上塗り)と、**漆喰(消石灰)**が主役。

  • 調湿・防火に優れ、地域土の色合いが景観を形づくる。

大正~昭和前期

  • 近代建築の内部に石膏プラスター、外装にはモルタルが台頭。工期短縮と平滑性が評価される。

  • 漆喰は寺社・数寄屋など意匠性の高い領域へ。

高度経済成長~昭和後期

  • RC普及とともにセメントモルタルが標準化。耐久・強度に重心。

  • 仕上げはリシン・スタッコなど吹付けが主流に。乾式材(ボード)の拡大で左官領域は縮小。

平成~令和

  • 省エネ・健康志向の高まりで漆喰・土系が再評価。調湿・抗菌・脱臭など機能素材として復権。

  • 既存下地へ薄塗りで質感を出すマイクロセメント/ミネラルペーストポリマー改質材が普及。

  • 外断熱(EIFS)やALCの専用下地材・メッシュ補強が標準化。

結論:材料選定は意匠の問題から**建築物理(湿気・熱・ひび割れ)**の問題へ。左官は“素材の組み合わせ設計”の職能に広がった。


2|工法の変遷:木舞土壁から複合下地・メッシュ補強へ

  • 伝統工法:木舞竹・小舞掻き→荒壁→中塗→上塗。時間と養生をかけ、収縮を分散して長寿命化。

  • 近代以降:ラス下地・モルタル塗り、ラス金網/ファスナーの選定と留め付けピッチが品質の鍵に。

  • 現代:乾式下地(石膏ボード・ALC)上にフィラー+メッシュ+仕上げ多層システム。下地の動きを吸収し、ひび割れと剥離を抑える。

  • 外断熱:EPSボード+ベースコート+メッシュ+仕上げ。防水・通気・熱橋まで含む“外皮パッケージ”。

重要なのは、一次防水・二次防水・通気排湿・熱橋対策の連続性。塗り厚や層構成は“美観の話”ではなく性能の設計


3|道具と生産性:鏝の妙技+機械化・デジタル化

  • 鏝の多様化:ステン鏝・角鏝・柳刃・中塗・漆喰・仕上げ鏝…用途最適化が進む。プラスチック鏝で黒ズミや鏝跡の抑制。

  • 機械化:ミキサー・モルタルポンプ・スプレーガン・パワートロウェルで面精度と速度を両立。

  • デジタル:レーザー墨出し・デジタルレベル・温湿度ロガーで平滑度・含水率・養生を“言える化”。拾い出しはBIM連携でロス削減。


4|性能要求の変化:装飾から“外皮の器官”へ

  • 調湿・カビ抑制:漆喰・珪藻土の表面積とアルカリ性、吸放湿レートを数値で提示。

  • 耐久・防水:外装はクラックコントロール(メッシュ/誘発目地)、塗り重ね時の界面設計が必須。

  • 断熱・蓄熱:厚塗り土壁の熱容量を夏の遅れ効果として活用、外断熱との相性を設計で担保。

  • 耐火:土・石膏の不燃性を、準耐火・防火仕様の実験値・適合証で説明。


5|市場の変化:新築偏重からリノベ・ヘリテージ保存へ

  • リノベ市場:ビニルクロスからの左官化(薄塗り仕上げ)、タイル撤去後の平滑補修、古民家再生での土壁再生が増加。

  • 文化財・町並み:漆喰・黒漆喰・なまこ壁・洗い出しなど、地域意匠の復旧と技能継承。

  • 商空間:マイクロセメントや磨き仕上げ(“ヴェネツィアン”系)で素材感×衛生×耐久を同時に満たす需要。


6|品質・法規・安全:技能+標準化で信頼をつくる

  • 下地含水率・pHの確認、可使時間・養生温湿度の管理を標準手順に。

  • VOC・ホルムアルデヒド対策、改修時の粉じん養生・廃材分別。

  • 写真・数値の記録(塗り厚、メッシュ重ね幅、温湿度、クラック幅)で引渡し品質を可視化。


7|デザインの広がり:鏝跡から“光の反射率”まで

  • 質感:砂目・掻き落とし・磨き・骨材混入・雲母入り・洗い出し…光の拡散/反射をデザインとして制御。

  • :顔料・土のブレンドで地域色を再現。艶・反射率まで含めて照明計画と協議。

  • テクスチャ×機能:厨房は耐水系薄塗り、ギャラリーは低反射のマット、保育・医療は抗菌性を数値で説明。


8|人材・継承:徒弟制から“見える教育”へ

  • 動画SOP・3D断面教材で新人の立ち上げを高速化。

  • 技能検定や民間講座、材料メーカーのアカデミー共通言語を育てる。

  • ベテランの“勘”をチェックリストと数値に落とし、再現可能な品質へ。


9|短いケーススタディ

A|築40年RC外壁の再生

  • 課題:微細クラック・白華・雨だれ。

  • 施工:洗浄→ひび補修(低圧注入)→弾性下地+アルカリガード+メッシュ→鉱物系仕上げ。

  • 効果:クラック追従性が向上し、3年後の再劣化ゼロ

B|古民家の居室を現代化

  • 課題:冬の結露、夏の暑さ。

  • 施工:内側に土系中塗り厚増し(蓄熱)+漆喰仕上げ、窓は内窓化。

  • 効果:体感温度の改善と結露減少、住民満足度UP。


10|現場で役立つチェックリスト(抜粋)

下地

  •  付着強度/含水率/pHの確認

  •  可動目地・誘発目地の計画、ラス・メッシュの固定ピッチ

配合・施工

  •  水量・外気温・可使時間の管理

  •  層構成(下塗/中塗/仕上げ)の乾燥・養生

仕上げ

  •  塗り厚・平滑度・色むら・鏝跡の許容基準

  •  汚れ・カビ対策(撥水・抗菌)と清掃マニュアル

記録

  •  施工写真(全景→中景→接写)、ロット・温湿度ログの保存


11|これからの左官:素材と建築物理の“統合エンジニアリング”へ

  • 外断熱×鉱物仕上げの普及:ひび割れ制御と耐候を両立。

  • 低炭素材料:石灰の再炭酸化や副産物活用、施工時CO₂の見える化

  • デジタル:BIMでの層構成標準化、品質データのクラウド引渡し

  • ヘルスケア:調湿・VOC吸着を**室内空気質(IAQ)**の観点で提案。


12|90日アクション(明日から変わる三手)

  1. “層構成シート”を標準化:下地条件→下塗→補強→仕上げ→養生をA3一枚で。

  2. 温湿度と塗り厚の記録を始める:簡易ロガー+膜厚ゲージで“言える品質”。

  3. メッシュ補強の標準図(開口周り・入隅・目地)を社内共通化:クラックを“設計で”減らす。


結び

左官は、単なる“塗り”ではありません。素材を選び、層を設計し、熱と湿気を制御し、光をデザインする。
土と石灰の時代から、セメント・樹脂・外断熱の時代を経て、いま再び“土と鉱物”の価値が見直されています。

壁は建物の器官——呼吸し、守り、魅せる。
次の現場でも、性能の連続性素材の魅力を同じ図面の上で両立させましょう。あなたの鏝跡が、街の空気を少しやさしくします。

 

 

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